英霊の御心



わが国戦後の風潮で特に痛感させられるのは、自己の権利と利益のみを主張することの強くなったことである。言うなれば、エゴイズムが大手を振って罷り通っている。

かつてアメリカの大統領ケネディー氏が、こう喝破した。

「今やアメリカ国民は、国家に何をして貰うかを考える前に、国家に対し何を為すべきかを考える時である」と。
この警句は、そのまま今日の日本国民にも与えられるべき警鐘ではなかろうか。

それにつけても、近年つくづくと偲ばれるのは靖国英霊の御心である。私は先日の慰霊祭で祭文を奏上したが、その中でこの点について感懐を述べた。以下に掲載するのでご批判をいただきたい。






祭     文




靖国の御社に 神鎮まります英霊の皆様。 われらは 今年もまた この御社に集まって参りました。

戦終って二十四年 歳月は流れましたが われらが皆様に対する 敬愛 思慕 感謝の気持は ただ増すばかりなのです。

語れば尽きぬ皆様の思い出も 走馬灯のように転現する皆様の勇姿も すべてが昨日の出来事のごとく鮮烈に蘇って あの苛烈な戦場の景観とともに われらが脳裏を埋め尽してしまうのです。

この心情は たとえ われらが頭髪が枯れ果て 顔は老醜に変り果てようとも  終生変らぬものでありましょう。

顧みれば 戦後の日本は 隆々たる発展 国民生活の向上を見ました。 これひとえに 英霊皆様の犠牲によって築かれた 平和があったればこそです。

近年 日本の風潮は 己を責むるに緩 人を責むるに厳 ひたすらに 自己の権利と利益を追求することに追われて 人のため 社会のため 尽す心を見失ったかの感があります。 人間社会が 人と人との連帯によって成り立っている以上 人間が 自己中心主義のみに堕したとき 社会が混乱し 平和が崩れていくことは明らかです。

政治家は ただ自己の票のみを考え 企業人は ただ利益の追求のみに没頭し 国民大衆は自己と自己の家庭のみしか顧みなくなったとき その国の前途は 憂うべき赤信号ではないでしょうか。 たとえ 学者は 日本の将来をバラ色の未来と予言しても その基礎になる平和社会の維持を忘れては すべては儚い夢になりましょう。

他人への感謝 社会への奉仕 この精神こそ今日の日本に最も望まれるものであり また英霊皆様の御心にほかなりません。 己の生命を捧げて国に奉仕した皆様の精神は 今こそ われら国民が斉しく学ばねばならぬ心だと確信します。

われらは今 このことを深く銘肝し 皆様の御前に誓います。

英霊の皆様 ご照覧ください。


(昭和四十四年六月)








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