日本人よなめられるな





帝京大学教授 高山 正之







この前、旧日本領の南洋諸島の一つ、パラオにいった。

日本からは米国の航空会社、コンチネンタル航空のグアム経由便でいくが、さて、成田に行って驚いた。搭乗機が何と三十年も前につくられたDC10だった。

この飛行機は製造されてすぐパリで床が抜け落ちて墜落し、シカゴでも離陸直後に裏返しになって落ちて・・・といった具合に実によく事故を起こしていた。

それでダグラス社は左前になってマクダネルに吸収合併された。この機体を今でも使っているのは貨物機ぐらいだろう。

しかし、それは驚きのまだ入口だった。座席が異常に狭い。ひざ頭が前席の背にこすれ、ひじ掛けの下から隣席の婦人のわき腹の肉がこちら側に押し寄せてくる。

酒でも飲んで寝てしまおうと注文すると、国際線なのに「二ドルいただきます」ときた。

機内食は出た。ただ、これもすさまじい。かさかさのパンにチーズをはさんだだけ。「飲み物といっしょに飲み下すんです」とこの便をよく利用する隣席の女性がコツを指導してくれた。

やっとグアムに着いたら、「乗り継ぎ便は四時間後」ときた。この辺はコンチネンタルの独占運航だから、こんなでたらめができる。でも四時間はいい方で、名古屋からの女性グループは「七時間待ちです」となぐさめてくれた。

そして帰り便。また恐怖のDC10で、何とか離陸して、こっちは仕事疲れで寝入って、やがて「食事です」で起こされた。機内は真っ暗で、老朽機にありがちな停電かと思ったら、「いや映画を上映するといってもう一時間以上、真っ暗なまま」だと隣の客が教えてくれた。

客室乗務員に聞くと白々しい驚きのポーズがあって、やっとスクリーンが明るくなった。

ハリソン・フォードが初の悪役を演じる映画で、恐怖のなぞ解きが進み、ミシェル・ファイファが殺されそうになるクライマックスで、画面暗転。「まもらくナリタです」で終わってしまった。

乗客は「えーっ」と声はもらしたものの、そこは日本人だから暴動も器物損壊もなく、乗員の冷たい笑顔に送られて降りていった。ちなみにこの航空運賃はエコノミー往復で二十二万円だった。







「異見自在」は三年余で百七十本近くになる。その中で一番、頭にきたのがノルウェーの航空会社で出品した「日本人」というCMがカンヌ国際広告賞で金賞を取ったという話だ。日本人乗客がおしぼりの何たるかを知らず、ケーキで顔をふいてしまい、といった内容で審査会場は大爆笑、日本代表をふくめ全会一致で金賞が決まったという。

おしぼりは日本が世界に普及させた日本文化だ。つい前世紀まで手づかみで食事をし、手鼻をかんでいたノルウェーにはこんな上品な風習はない。

問題はそれ以上に「日本人」というタイトルである。明らかに日本人を間違ったイメージでステレオタイプ化し、メガネに出っ歯、カメラを下げて、の旧来のイメージを土台に、あか抜けないどじぶりを付け加えてみました、という意図がありありなのだ。

いや、そんな意図はないと日本代表は言っているようだが、では、なぜ、爆笑の対象を「中国人」や「ユダヤ人」にしなかったのか。答えは簡単で、そんなことをすれば外交問題どころか、この航空会社はつぶされてしまうだろう。

要するに、彼等は日本ならどんなことをやってもただへらへら、文句も言わないのを知っているからだ。現にこのCMが流れ続けた在ノルウェーの日本大使館は抗議すらしていない。

日本を虚仮にしているのは米国も同じだ。ルービン米財務長官の退官パーティーで、一本のビデオが座興で流された。クリントンも登場する寸劇は、ルービンが彼におとしめられた日本の官僚に誘惑され、CIAが救出するという筋立てだ。

ここでも、なぜどじな誘拐犯が日本人なのか。ルービンの大親友といえば、マハティールがアジア経済危機の張本人と名指ししたジョージ・ソロスがいる。それでルービンが親友をかばい、ヘッジファンドが悪いんじゃぁない、アジア諸国の経済体制が未熟だとかマハティールと随分やりあった。

それなら誘拐犯をマレーシア人にすれば、もっと迫力も出たろうが、そうしたら座興が座興でなくなってしまったろう。

ここでも同じように、日本ならどう侮辱してもばかにしても、問題にならないということだ。







日本はおよそ外国となるとやたら寛容になる。その外国で日本を侮辱のネタにしても、「文句を言うのは大人げない」なんて分別そうにいってきた。その結果はどうだったか、ナメられ、見くびられるだけだった。

もう寛容の時代は終わった。手始めにコンチネンタル航空を日本人乗客の侮辱罪で乗入れ権を剥奪する。米国が文句を言ってきたらルービンの寸劇の悪意の釈明を求めればいい。

卑下をやめ、世界を等身大で見る訓練をすべきだ。

そうすれば、サッカーW杯で「韓日」を公式タイトルにするなんて発想は消えるだろう。



(注)  この記事は産経新聞の平成13年3月22日朝刊より転載しました。







平成14年6月25日 戦友連401号より


【戦友連】 論文集